- 2024年6月
- 2024年5月
- 2024年4月
- 2024年3月
- 2023年12月
- 2023年11月
- 2023年10月
- 2023年9月
- 2023年6月
- 2023年5月
- 2023年3月
- 2023年2月
- 2023年1月
- 2022年11月
- 2022年10月
- 2022年9月
- 2022年8月
- 2022年6月
- 2022年5月
- 2022年4月
- 2022年3月
- 2022年2月
- 2022年1月
- 2021年12月
- 2021年11月
- 2021年9月
- 2021年8月
- 2021年7月
- 2021年6月
- 2021年5月
- 2021年4月
- 2021年3月
- 2021年2月
- 2021年1月
- 2020年12月
- 2020年11月
- 2020年10月
- 2020年9月
- 2020年8月
- 2020年7月
- 2020年6月
- 2020年5月
- 2020年4月
- 2020年3月
- 2020年2月
- 2020年1月
- 2019年12月
- 2019年11月
- 2019年10月
- 2019年8月
- 2019年7月
- 2019年6月
- 2019年4月
- 2019年3月
- 2019年2月
- 2019年1月
ドローンで上空から圃場をモニタリング
生育状況、病害虫の発生を把握
農業生産において精密な栽培管理を行うには、作物の生育を的確に把握することが求められます。しかし、作付け面積が数ヘクタールにもなる広大な圃場(ほじょう)では、生産者が歩いて見て回ることは難しくなってしまいます。そこで広大な農地でも精密な栽培管理を可能にするべく、農研機構農業情報研究センターはドローンを用いて上空から圃場を撮影。そこで得られた画像から、作物の生育状況や病害の発生を把握しようとしています。
広大な農地で作物の生育を把握するのは難しい
広大な農地が広がる北海道では、数ヘクタール規模で作付けを行う経営体は少なくなく、大規模に作付けしている圃場だと40ヘクタールにも達するところがあるといいます。これほど圃場が広大になると、生産者が歩いて作物の生育を確認して回るのは困難です。かといって、荒っぽく栽培管理していいはずはなく、広大な圃場でも詳細に作物の生育を把握できる技術が求められています。農研機構農業情報研究センター主任研究員の杉浦綾(すぎうら・りょう)さんらの研究グループは、ドローンを用いて上空から作物の生育を把握する技術の開発に取り組んでいます。
「今から9年前、以前に所属していた農研機構の北海道農業研究センターに異動したのを機に、広大な圃場で作物の生育を把握する技術として、上空から観察しようとしました。人工衛星が撮影した画像を利用することも検討したのですが、当時、衛星画像は高額である上、画像を請求してから届くのに1週間程度かかっていました。これだけ時間差があっては、日々の栽培管理に衛星画像を活用することはできず、ドローンを利用することにしました」(杉浦さん)
といっても、当時はドローンも高額で、海外製品が1機1000万円もしました。この価格のままでは普及は望めません。しかし、杉浦さんは「今後、ドローンは急速に安くなっていく」と予測。自らドローンを試作し、一般的な一眼レフカメラを搭載して、農業に活用する方法の開発に取り組みました。
農研機構農業情報研究センターの主任研究員、杉浦綾さん
空撮画像を参考に施肥量を自動調整する
せっかくドローンを飛ばして上空から圃場を撮影するのですから、得られた画像から栽培管理に有効な情報を得ることが求められます。杉浦さんはドローンが撮影した二次元の画像を三次元に再構成するソフトウエア「FieldReconst(フィールドリコンスト)」を開発しました。真上から撮影した二次元の画像だけでは困難ですが、三次元に再構成することで、圃場の立体的な形状を把握しやすくなり、例えば、作物の草高を推定できるといいます。
「FieldReconst」を用いて二次元の空撮画像を三次元に再構成できる(画像提供:杉浦綾)
そこで杉浦さんらの研究グループは、畑を88分割した上で、それぞれに条件を変えて栽培したダイズを対象に草高を評価しました。品種や施肥量を変えているため、生育に差が生じるわけですが、これをドローンで捉えられるかどうかを検証するため、二次元画像を三次元に再構成して、各領域の平均草高を算出した結果、下図のグラフが得られ、ダイズの生育の違いを示すことができました。
「草高が低く、成長が遅れている場所は、土壌中の養分が少ないのかもしれません。現在は可変施肥ができる肥料散布機が実用化されていますから、ドローンの画像から得た草高のデータと連動させることによって、圃場の場所ごとに適切な量を施肥することも可能になるでしょう。ただし、作物の草高を決めるのは土壌中の養分だけではありませんから、今後は養分以外の要因も加味して、作物の草高の情報から適切な施肥量を決められるようにする研究を進める予定です」(杉浦さん)
圃場の二次元画像からダイズの草高を推定する(画像提供:杉浦綾)
作付けしていない裸地であっても、ドローンの画像を三次元化することで地面の凹凸を詳細に把握できるため、圃場内の水はけの差異を把握するのにも活用できるでしょう。FieldReconstはフリーソフトで、農研機構北海道農業研究センターのウエブページからダウンロードして自由に使えるので、自身の栽培管理にドローンの活用を検討されている方は利用してみてください。
ジャガイモのウイルス感染株の自動検出を目指す
作物の生育状況を確認する程度ならそれほど高解像度の画像は必要なく、ドローンを高度100メートルぐらいで飛ばして、少ない撮影枚数でも把握することが可能となります。その一方で、撮影枚数は増えてしまいますが10メートル以下の低高度で飛ばせば、画像の解像度は高まって違った使い方ができるようです。
「ジャガイモのウイルス感染症の症状は微妙で、芋が少し小さくなるぐらいですから、通常の圃場ならあまり問題視されることはありません。しかし種芋の生産においては、ウイルスの拡散を防ぐために、感染株が含まれていると、その圃場の種芋を出荷できなくなることがあります。ですから、種芋の生産者は圃場を見て回って、感染株があると速やかに除去するのですが、この早期発見が大変な作業なので、ドローンを使えないか検討しています」(杉浦さん)
ウイルス感染株が発生しているが、素人目には違いは分からない(画像提供:杉浦綾)
ウイルス感染株と正常株の大量の画像を機械学習して、感染株の自動検出の実現を目指す(画像提供:杉浦綾)
数ヘクタールに及ぶ圃場を見て回ることは重労働です。かといって、ウイルス感染株と正常株の差異は微妙で、熟練者でなければ見分けることは難しく、アルバイトに任せるわけにはいきません。そこで杉浦さんはドローンによるウイルス感染株の検出を実現すべく、感染株と正常株の大量の画像を人工知能に示して、機械学習させて両者を見分けさせようとしています。まだ正答率が低く、実用化するにはもう少し時間がかかりそうですが、ドローンによるウイルス感染株の自動検出が実現すれば、ジャガイモの種芋生産の効率化が進むことでしょう。
※テキスト、画像はマイナビ農業より転載。