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Report.14 AgVenture Lab

オープンイノベーションで「食」「農」「暮らし」が抱える社会課題の解決に取り組む。

JAグループの強みを活かして豊かな社会を次世代へ。

 

国民にとって安心安全な食を確保することが使命であるJAグループの8つの全国組織によって2019年に設立された一般社団法人AgVenture Lab(アグベンチャーラボ)。「食」と「農」と「暮らし」に関わる社会課題を解決し、それらをサスティナブルにしていくことを目的にさまざまな事業に取り組んでいます。

今回のアグレポではAgVenture Lab理事長の荻野浩輝様と、ラボに縁のある株式会社SunshineDelight代表取締役の伊藤瑛加様にお話を伺い、ラボの具体的な取り組み内容に迫りました。

 


 

一般社団法人AgVenture Lab

代表理事 理事長

荻野浩輝さん

 

1965年愛知県生まれ。1990年4月農林中央金庫入庫。2000年にUC-Berkeleyに留学しインターネットビジネスを学ぶ。帰国後はITリスク管理、データマネジメント関連要職を経て2017年7月のデジタルイノベーション推進部新設とともに執行役員同部長に就任。2019年5月に設立したAgVenture Labの代表理事理事長を務める。2021年4月から農林中央金庫特別参与に就任。

 


 

株式会社Sunshine Delight

代表取締役社長

伊藤瑛加さん

 

2019年7月、高校3年生にして株式会社Sunshine Delightを設立。同社の代表取締役に就任。2020年3月に中央大学附属高等学校を卒業し、同年4月に中央大学法学部へ進学。2021年現在も在学中。「農業者の母親への紫外線の影響を目の当たりにし、紫外線対策の重要性を感じたこと」から起業し、学生メンバーとともに企業理念である「太陽の下で安心して暮らせる環境を」を追求する。

 


 

イノベーターを支援するため、国も世代も超えた多彩な活動を展開

 

−まずはAgVenture Lab設立の目的と取り組み領域を教えてください。

 

荻野理事長(以下、荻野さんと表記):AgVenture Labは「食」「農業」「地域の暮らし」のまわりにある社会課題を解決していくことを目的にJAグループが設立したイノベーションラボです。2019年からこうした課題解決に取り組もうとしているスタートアップ企業の支援を続けています。JAグループ自体は古くから存在する大きな組織なのですが、ラボの設立をきかっけにグループ内のマインドを時代に合わせて変化させていこうという狙いもあります。取り組み領域はスマート農業を中心とした【Agtech】のほかに【Foodtech】【Lifetech】【Fintech】【地域創生】という5つを掲げていまして、食と農業と暮らしという幅広い領域でイノベーションの創出を後押ししているところです。

 

とても幅広い取り組み領域ですが、JAグループやスタートアップ企業とは異なる立場の方もラボに参画されているのでしょうか?

 

荻野さん:そうですね。JAグループとともにスタートアップ企業を支援してくれるパートナー企業や大学、行政機関なども参画いただいています。まさにオープンイノベーションですね。我々の特長であると思っているのは農業者も参画しているという点です。農業者には企業の新技術などに対するフィードバックをお願いしていますが、対話することによって現場で価値のあるものが生み出せるはずだと信じています。なかには現役の農家でありながら、自分で使いやすい農作業管理アプリを開発するためにラボの活動に参加した方もいて、受け身ではなく新しいアイデアを持ち込む側として活動している事例もありますよ。

 

●東京都大手町のラボ。コロナ禍においてもスタートアップ企業のために稼働を続けている

 

−取り組み領域も幅広いですが、活動内容も多岐にわたると聞きました。

 

荻野さん:昨年(2020年)の2月頃までは週2回ほどのペースでオフラインでのイベントを開催していました。月に約1000名は動員していましたね。内容は国や都道府県、市町村と連携して開催する講演やアイデアソンなどがメインです。コロナ禍においても、オンラインイベントに切り替えたり、動画配信を行うなどして活動を止めないようにしています。フランスやタイ、ルワンダなど海外諸国とのジョイントイベントにも積極的です。国内外でイノベーションを創出するために当ラボと同じような取り組みを行う団体とのラボ間連携や、大学の知財にふれる機会を増やすために大学連携も強化してきています。大学では、我々が授業を行うこともあり、農業や食が抱える課題に対して学生の皆さんが起業家であったならばどのようなサービスを創造するかということを考えてグループで提案してもらっています。こういった活動を通じて、起業を志す学生が増えていってほしいと願っています。

 

−国内だけにとどまらない活動のなかでも「JAアクセラレータープログラム」が目を引きました。

 

荻野さん:そうですね、「JAアクセラレータープログラム」はラボの活動のなかでも特に注目度の高いものだと感じています。この取り組みは起業家から新しいビジネスプランのアイデアを募って、JAグループと一緒に取り組めそうなスタートアップ企業を選抜して支援していく内容です。3期目となる今年(2021年)は、過去最多となる211社の応募をいただきました。5月24日に最終選考となるビジネスプランコンテストを開催し、審査の結果、今期は9社のスタートアップ企業がプログラムに参加することが決定しました。これから先の展開をとても楽しみにしています。スタートアップ企業には資金も必要になりますが、当ラボは農林中央金庫のコーポレートベンチャーキャピタルとしてスタートアップ企業へ投資するファンドをつくっています。「ラボ」「アクセラレータープログラム」「ベンチャーキャピタル」という3つのツールでスタートアップ企業を支援している状況です。今日来てくださっているSunshineDelightの伊藤さんは、2019年の第一回「JAアクセラレータープログラム」に当時高校生で応募してくれました。興味深い内容で、我々も一緒に取り組みたかったのですが学業との両立を考えると頻繁にラボに通ってもらって協業していくのは難しいという判断で、特別賞に選定させていただいたという経緯があります。

 


 

高校生にして起業へと歩み始める1人の学生の背中を大きく押した特別賞

 

−お待たせしました。ここから荻野さんとの対話形式でお話を伺いたいと思います。現在も大学生ということで学業と企業経営の両立は大変かと思いますが、伊藤さんが起業を考え始めたのはいつのことでしょうか?

 

伊藤代表(以下、伊藤さんと表記):高校2年生のときです。選択授業で起業について勉強したことがきっかけで意識し始めました。農業者の母を見ていて紫外線対策に関心があったのですが、社会課題をビジネスモデルで解決することができるんだと知って、自分も取り組んでみたいと思うようになりました。そんな時に、JAアクセラレータープログラムの存在を知って、思い切って挑戦してみようと思いエントリーしました。

 

 

−JAアクセラレータープログラムはどうやって知りましたか?

 

伊藤さん:ビジネスに関する選択授業を受けたあと、起業を意識してビジネスコンテストに参加していた私に、両親が「こういうものがあるよ」と教えてくれたのが最初の出会いです。せっかくの機会なので、迷わず挑戦しようと決意しました。後々、調べてみてわかったことですが、JAアクセラレータープログラムのように登記していなくてもエントリーできるアクセラレータープログラムはとても少なくて、私にとってはとても良いチャンスだったんだなと改めて思っています。

 

荻野さん:イノベーションのために幅広く新しいアイデアを募りたいので、どこかのタイミングで登記するという前提のもと、応募時には登記していなくてもOKとしています。大学生からの応募もあったりしますからね。高校生での応募というのは、いまのところ伊藤さんだけだったと記憶していますけど、登記を必須にすることでこういう世代がチャレンジを断念しないようにしたいんです。

 

−応募を決めたわけですが、どのように準備をすすめたのでしょうか?

 

伊藤さん:紫外線対策が私のテーマだったので、関連するものとして真っ先に頭に浮かんだのは日焼け止めでした。そこで、まずは日焼け止めの必要性をどうやって、どのようなかたちで訴求すればよいのかアンケートやヒアリングを通じて調査するところからスタートしました。その結果、保育施設関連のニーズが高いことがみえてきました。同時に、自分で勉強していくなかでも幼少期からの対策が重要になることがわかりましたので、そこから家族に相談したり、仲間を増やしていきながらアイデアを膨らませて事業計画を組み立てていった感じです。その過程で、保育に関する書籍の著者にコンタクトを試みて、色々と教わったりアドバイスをいただいたりすることもできて、約2カ月間で事業計画を明確にしていくことができました。

 

−全力で駆け抜けた内容の濃い2カ月が目に浮かぶようです。伊藤さんと同じように挑戦してみたいと考えるものの、どのように準備していけば良いのか迷われる方もいらっしゃるのではないかと思いますが、ラボとしても何か支援されていますか?

 

荻野さん:JAアクセラレータープログラムでは、まず書類選考があって次に面談選考があります。そこを通過した方を対象に、最終コンテストまでの期間でラボがメンタリングするフローを設定していて、ラボの人間や専門家が資料作り、話し方などについてアドバイスを行っています。

 

伊藤さん:私もメンタリングを経験しましたが、オンラインも活用して、いつでもサポートしてくださる体制だったので最大限活用しました。メンタリングがあったおかげで、資料もプレゼンもブラッシュアップできて、スキルアップを実感するとても貴重な時間でした。

 

−最終プレゼンでは準備の成果をすべて発揮できましたか?

 

伊藤さん:本番に向けてたくさん練習をしてきたことが功を奏したのか、周囲の反応を見ながら落ち着いて自分の思いを伝えきることができたなという達成感がありました。

 

荻野さん:伊藤さんはもともと堂々としていて最初からプレゼン上手かったですからね(笑)我々は何も心配することなく見ていました。第一回開催の時はオフラインでできましたが、伊藤さんのご両親も会場に見に来ていたのが印象的でしたね。

 

伊藤さん:荻野さんが「ご両親もどうぞ」と言ってくださったので、とても有り難かったです。

 

−学業との両立という点を考慮し、特別賞として表彰されたとのことでしたが、この受賞は伊藤さんにとってどんな意味がありましたか?

 

伊藤さん:高校生のプランがビジネスモデルとして認められたということで、本当に登記するぞという気持ちが固まりましたし、その後のイベント出展や高校とのコラボ企画をラボに協力していただけたのでとても意義のあるものでした。

 

−特別賞受賞に背中を押されたわけですね。その後、実際に商品化が決まったそうですが考えていたことが形になったときはどんな気持ちでしたか?

 

伊藤さん:今までのプランがやっと形にできたなという気持ちと、紫外線対策の習慣化を目指して活動していたことを認めて頂けて有り難いなという気持ちでした。そんな、嬉しくもあり、ホッとしたような気持ちとともに、プロジェクトを進めるために責任感をもって一層頑張らなくては身の引き締まる思いでもありました。日焼け止めの販売に合わせて、紫外線対策についての子ども向けの教材も完成しています。紫外線対策にとって重要な、幼少期から取り組む必要性を一人でも多くの方に認識していただくために教材の絵本と動画を広く普及していきたいと思っています。その次は、幼児向けだけではなく社会全体に紫外線対策の啓蒙活動を行っていきたいですね。

 

●Sunshine Delightの事業については改めてSAcWEBで紹介していく予定です

 


 

思い描く未来の「食」「農」「暮らし」

 

−この先の展開も楽しみなSunshineDelightですが、伊藤さんが経営に関して大切にされていることを教えてください。

 

伊藤さん:これまでの活動を通して人との繋がりが大切なんだと身にしみて感じています。リソースがなくても補える方に繋がれば先に進めますし、色々とサポートしていただけますので今後も関わっていただける方に感謝しながら人の繋がりを大切にしていきます。さまざまな人と出会って、つながるきっかけを提供してくださっているのでAgVenture Labとは今後もお付き合いさせていただきたいと思っています。

 

荻野さん:そういう言葉を聞くと嬉しいですね。伊藤さんのように日本の若い人たちがどんどん起業を目指してほしいですし、そうやって社会課題の解決を目指す社会になってほしいと願っています。私の世代では安定志向で「大きな会社に就職する」ことを目指す人が多かったのですが、世の中を変えていくためには社会課題の解決を志して行動を起こす人たちが起爆剤として必要だと思っています。若い世代からどんどんそのような人たちが出てきて欲しいですね。ラボとしても全力でお手伝いします。

 

 

−力強いメッセージをありがとうございます。伊藤さんからもこれから起業を考える方にメッセージをいただけますか?

 

伊藤さん:私は自分の実体験を通じて、起業には軸となる理念とそれをサポートしてくださる人の存在が不可欠だと考えるようになりました。この2つをもっていれば重要な人の繋がりは徐々に拡がっていきますので、ぜひ思いを持って前に進んでいってほしいと思っています。

 

−これから先の農業については、どのようになっていってほしいと考えていますか?

 

荻野さん:経営感覚をもって、ビジネスとして農業に取り組むと成功している人が多いと思います。そういう事例をもっともっと世の中に示して、「農業は魅力的なビジネスだな」と多くの人が憧れをもつようになっていってほしいです。もう1つ思うのは、この先農業者が減っていくことを考えると安心安全な食を確保していくためには生産性を上げていく必要があるということですね。労働力不足を補って、高収入ももたらしてくれるような高い生産性の農業になっていってほしいと思いますし、ラボとしても実現に向けて取り組んでいきたいと考えています。

 

伊藤さん:農業は生活にとって不可欠な存在なので、私も荻野さんと同じように持続的に生産できるようになっていってほしいですし、農業に関する「重労働できつい」というイメージも変化していってほしいです。私たちの事業である紫外線対策が浸透していけば、屋外での作業におけるシミやシワの原因を取り除くことができて、農業のイメージチェンジにも一役買えるのではないかと思うので、事業に注力していきます。

 

−今日は伊藤さんの体験談を交えながら、荻野さんにAgVenture Labについて伺ってきましたが、勝手ながらSAcとAgVenture Labには親和性があるように感じております。この先、SAcに期待することはございますでしょうか?

 

荻野さん:幅広く社会課題解決に取り組むラボですが、中心になっているのはやはり農業です。日本の農業を考える上で北海道は欠かせない土地だと思っています。先ほど申したように、私は高い生産性を誇る魅力的な農業の実現を願っていますので、これから北海道の団体や教育機関とも連携してイベントや実証実験を積極的に進めていきたいと考えています。SAcとは、そのような場面でラボが支援しているスタートアップ企業も絡めて、ともに取り組んでいきたいですね。