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Report.25 小葉松 真里 さん

土地も家も持たない、新しい農業との関わり方を実現

全国各地を飛び回る「フリーランス農家」に突撃インタビュー!

 

 

小葉松 真里 さん

北海道帯広市出身。

新聞社や地域おこし協力隊での勤務を経て、2019年より土地と家を持たない「フリーランス農家」として活動。季節と共に畑の繁忙期を求めて自ら移動し、農作業の手伝いをする傍ら、農業ライター、農泊コーディネーター、ワーケーション企画など、農業の魅力を発信する仕事を通じて、新しい農業との関わり方を実践している。

 

 

企業や団体と雇用契約を結ばず、自身が持つ知識やスキルを活かして個人で業務を請け負うフリーランス。近年、働き方の多様化に伴い、フリーランスとして働く人が増えています。多くの注目を集めるフリーランスですが、その働き方を農業で実践している方がいます。今回のアグレポでは、農業分野におけるフリーランサーの活動に迫ります。

 


 

小葉松さんの職業「フリーランス農家」とは?

 

SAc事務局(以下 S):フリーランス農家とはどのような働き方ですか?

小葉松さん(以下 K):フリーランス農家とは、「農作業」と「自分の好きなこと・得意なこと」を掛け合わせたワークスタイルだと考えています。私は、農業の繁忙期に合わせて全国で農作業を手伝いながら、ライターや農泊のコーディネーターとして活動しています。フリーランス農家に転身してから6年目になりますが、これまでに300カ所くらいの農場に足を運んできました。年間300日ほどは各地のゲストハウスやシェアハウスに滞在しています。

 

 

S:とてもアクティブですね。最近はどのようなお仕事をされていますか?

K:最近は企業や自治体と連携した事業に関するお仕事が増えています。昨年は、農業の関係人口を増やす事業に参画して、毎月北海道と沖縄や石垣島を行き来していました。北海道の東鷹栖産のお米や、沖縄で採れるタイモという伝統野菜、石垣島の国産パイナップルの認知度を向上させるために、現地で農業研修を受け入れ、参加者に情報発信をしてもらう取り組みを企画しました。また、北海道と鹿児島の沖永良部島で、農繁期の違いを利用した人材の産地間リレーを推進中です。もちろん、これらの活動と並行して農場も訪問していますよ。1ヶ所につき1週間ほど滞在し、収穫や植え付けなどの作業を手伝っています。

 

 

S:農業への強い思い入れを感じますが、農業とはいつどのように出会われたのでしょうか?

K:農業との出会いは、2度ありました。

最初は、幼少期です。祖父が鷹栖町で水稲農家をやっていたんです。家族からは「経済的に厳しく、重労働だ」という話を聞かされていたので、当時は農業を仕事にするという選択肢は全くありませんでした。

転機になったのは新聞社への就職だと思います。専門学校卒業後、地域貢献の仕事がしたくて地元・十勝の新聞社に入社しました。仕事を通じて地域の生産者の方と会う機会が多かったのですが、夢を持って農業に取り組む農家さんがたくさんいらっしゃって、農業に対するマイナスのイメージが180度変わりました。当時の私には、十勝で出会った農家さんが、それまで出会ってきた大人のなかで一番かっこよく映ったんです。そんな農家さんたちと交流を深めるうちに、地域は農業なくして成り立たないんだと感じて、次第に「私も農家さんのために何かできないだろうか?」と考えるようになりました。

 

 

S:就農という選択肢もありましたか?

K:私自身が新規就農することも、農業へ貢献するひとつの方法だと思ったのですが、「魅力的な生産者の方はすでにたくさんいる。私が就農することは、本当に農家さんのためになるのだろうか」と自問していました。当時の私には新聞社での経験や今までに培った人脈がありましたので、私にあるものを使って、私にしかできない新しい農業との関わり方を見つけられたら面白いと思ったんです。

 

 

S:それで、フリーランス農家になると決めたのですね。

K:そうですね。新聞社を退職して、紆余曲折を経て地域おこし協力隊として栗山町へ移住しました。そこで、生産者の方と一緒にイベントの企画をしたり、新規就農者の方と一緒にマルシェに出店したりと、農業振興に関する仕事をしていました。そうした活動の中で、イベント開催の実績や生産者の方とのつながりができていたので、協力隊を終えた後も活動を継続し、個人事業としてフリーランス農家のキャリアをスタートさせていきました。

 

 

もっと知ってほしい!農業や農家さんの魅力

 

 

 

S:フリーランス農家という働き方は、ズバリ楽しいですか?

K:はい!すごく楽しいです!

純粋に農作業で体を動かすことが気持ちいいということもありますが、作業をしながら農家さんとお話しできることが何よりも楽しくて、日々のモチベーションになっています。フリーランス農家として各地を渡り歩くと、その地域で働く方々と深いつながりを持てることが、この働き方の大きな魅力です。また、農家さんがその地域の特産品をまかないとして用意してくださったりするので、各地の美味しいものが味わえるという楽しみもあります。

 

 

S:各地を飛び回る小葉松さんの原動力となっているのは、どんなことですか?

K:この働き方が「楽しい」ということと、私の人生の方向性を明確にしてくださった農家さんたちへの恩返しの気持ちが原動力になっています。
農業というと、衰退産業であるとか、儲からない、という私が幼少期に感じていたような暗いイメージが先行しがちです。ですが、実際に農業現場に目を向けてみたら、全くそんなことはないんです。農家の皆さんは、それぞれ課題を抱えつつも自分たちの作物に誇りを持って、前向きに農業に取り組んでいらっしゃいます。消費者の皆さんにも、こうした農業のポジティブな面を知ってほしいです。

 

 

S:農業体験ツアーのようなものや、SNS、メディアなど、農業を知る方法は数々あると思います。
小葉松さんは、消費者がどのように農業と接してほしいと考えていますか?

K:消費者の方の中には、普段口にしている作物のことなのに、その作物がどのように作られているか、背景を知らない方も多いと思います。最初の接点は観光になるかもしれませんが、農業現場に来て、実際にその地域の農家さんと交流してほしいです。そのなかで、農業にポジティブなイメージを持つ関連人口が増えていくといいなと思っています。私の目標は、「食べる人全員が、一度は農業に触れたことがある」という世を作ることです。

 

 

S:素敵な目標ですね。農業の魅力を知り、担い手不足の農業に関わる人が増えてほしいです。

K:これからも農業が持続していくためには、担い手の確保が必要不可欠です。そのためには、農業の魅力や可能性を、皆さんにもっともっと知っていただくことが必要であると思っています。

全国を巡る中で、農業現場では、労働力以上に消費者との接点を求めていることに気が付きました。農作業を行う人だけでなく、私のように現場で繋がった農家さんの情報発信のお手伝いをする人や、デザインの仕事を受ける人など、持続的に農業現場と関わる方が増えたらいいなと思います。

 

 

 

農業と関わる人を増やすために。
小葉松さんが見据えるこれから

 

S:「私もフリーランス農家になりたい!」という人は、何から始めたらいいでしょうか?

K:私は農業現場と接点がある状態でフリーランス農家としての活動を始めました。まずは農家さんのところに飛び込んでみて、つながりを作ることが必要だと思います。実際に農業現場に行ってみて気づくこともたくさんありますので、現場を見てみてほしいと思います。私は自治体の窓口に電話して「農家さんを紹介してください」と頼んでみたこともありました。

 

 

S:小葉松さんにご相談することもできますか?

K:はい。今後は、フリーランス農家を志す方が最初の一歩を踏み出すためのサポートをしていきたいと思っているので、ご相談いただければと思います。

 

 

S:これから、小葉松さんはどのようなことにチャレンジしたいですか?

K:フリーランス農家として活動を続けつつ、これからは、困っている農業現場をサポートできる仕組みづくりに注力したいと思っています。

現在、私一人では受けきれないほどの依頼を各地からいただいていて、これ以上関わる地域を増やせないことに心苦しさを感じています。農家さんの困りごとや、農業に関わりたいという人材の能力や経験値をデータベース化して、双方のマッチングを促進できたらいいのではと考えています。これまでに訪問した各地域については、行政と連携し、その地域に来た方がきちんと農家さんや地域の方と交流できるようなコミュニティを作っていきたいです。

 

 

S:自分のやりたいことがわからないという人も多いと思うのですが、小葉松さんのように情熱を注げるものや没頭できるものに、どうしたら出会えると思いますか?

K:小さなことでも、自分のやってみたいことをやるという経験を積み重ねることが重要だと思います。例えばご飯を食べに行くとき、「ちょっと遠いからやめておこう」とブレーキをかけてしまうのではなく、自分の気持ちに正直に動いていくことで、自然と必要な情報や人に出会っていくのではないかと思います。

今年本を出版する予定があるので、ゆくゆくは子どもたちを対象にした授業や講演もしていきたいです。農業の魅力や、好きなことを見つける大切さを伝えてきたいと思っています。

 


 

【関連リンク】
小葉松真里さん 公式HP
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