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Report.5 酪農学園大学 農学博士 園田高広先生

実学を実践し、研究課題は生産現場から抽出する。

育種したアスパラガスが多くの生産者によって

栽培されるのが何より嬉しい。

 


 

園田高広さん

福島県出身。「アスパラガスの安定生産」を主な研究テーマとする世界的にも数少ないアスパラガス研究者の一人。地元・福島県の職員としてアスパラガスの育種に携わり、以来20年以上アスパラガス一筋で研究を続けてきた。2012年からは酪農学園大学の教授となり、現在は酪農学園フィールド教育研究センターセンター長を兼務されている。


 

研究者への想いとアスパラガスとの出会い

 

園田先生が幼少のころ、実家の庭には母親が趣味で造るバラ園がありました。色とりどりのバラが咲く美しい庭で母親の手伝いをしているうちに、バラにはたくさんの品種があることを知り「バラの品種改良をしたい」と思うようになったそうです。

「当時は青いバラを作ったらノーベル賞ものと言われていました。自分もバラの品種改良に携わって青いバラを作りたいと思っていましたね」。園田先生は大学では農学部に進学、花卉園芸学研究室で学生生活を送りました。大学卒業後は、民間企業に4年ほど勤めたのち、福島県職員として試験場に勤務します。そして、県が新たに作物の育種部門を立ち上げる際、園田先生は育種に携わることになりました。当時、何の育種をするかという議論の中で、生産現場からニーズが高かったのがアスパラガスでした。現場の声に応えるため、多収で病害抵抗性をもつアスパラガスの育種に着手することになりました。しかし、園田先生はアスパラガスを作ったこともなく、さらに県として遺伝資源もない状態。アスパラガスとの出会いは、まさに「0」からの厳しいスタートでした。はじめは何をしていいのかわからず、現場を歩いて何が良いアスパラガスで、何が良くないのかという品種特性を理解しながら、遺伝資源を集める日々が3年ほど続き、精神的に苦しい時期だったと園田先生は当時を振り返ります。

「成績検討会では、他品目の研究者が交配と選抜の報告をするなかで、アスパラガスはなかなか育種まで進めなかったので『こんなアスパラがあった』とか『こういうことを試験したがうまくいかなかった』という内容の報告しかできなかったですね」それでもずっとやりたかった研究職。辛い時期でも決して歩みを止めることはありませんでした。

園田先生はアスパラガスに対する専門知識を修得するにつれて、生産現場のニーズをより深く理解できるようになり、次第に楽しさを覚えるようになりました。また、品種の交配ができるようになると、ブリーダーとして「こんなアスパラガスを作るにはこれとこれを交配すればいいのではないか」と株を見ただけでイメージができるようになりました。実際にイメージ通りの品種ができると、研究が一層楽しくなっていったといいます。

「ブリーダーとしては、自身が作った品種を多くの生産者が作って、多収を実現してもらい農業所得を上げていただくのが最高に嬉しいことです」。アスパラガスの育種は一つの品種を世の中に出すまでに10年もかかる長期的な取り組みですが、生産現場への想いを原動力にグリーンアスパラ「ハルキタル」「春まちグリーン」「ふくきたる」や紫アスパラ「はるむらさきエフ」など、現在までに6品種を手掛けてきました。

 

 


 

 

学生の未来のための農学を

 

こうして新しい品種を世に送り出した園田先生は、自身が作った品種の普及をするため、福島県会津地方を担当する広域の普及員として、アスパラガスの産地振興に従事することになります。広域の普及員として4年間勤務した後、本庁で県の研究の進行管理と予算管理をする立場となり、研究現場から6年間離れることになりましたが、この間も研究者への想いを持ち続けていました。「これで駄目なら研究者の道を諦めよう」と自らに言い聞かせるように、当時公募されていた酪農学園大学の採用試験を受けます。そして、実学教育を重視する大学にこれまでの生産現場での取り組みが認められ、採用になりました。

「研究実績だけを重視する大学であれば、まともに論文を書くことができない環境が6年間もある人は採用されないかもしれませんね」と園田先生は笑顔で振り返ります。現在、大学の授業では、野菜園芸学、園芸学実習、有機フードシステム論を担当し、大学院では作物保護学の授業を受け持っています。週に6~7コマの授業で教鞭をとり、研究室では園田先生が大切にしている「実学の実践」をテーマに品種改良、栽培法や病害防除法の開発を研究しています。

学生には生産現場から抽出された課題を研究テーマとし、生産現場とともに解決するために研究を進めるよう指導しており、学生とともに全道各地の生産現場を訪れています。アスパラガスという品目を題材に、病理、栽培、土壌肥料、育種まで農学に関するあらゆるカテゴリーを網羅し、農業のための必要な知識を身につけることができる研究室ですが、園田先生は「学生には研究活動を通じて社会性を身につけて欲しい」と期待を込めています。

「実学は問題解決の手法としてどのような環境・分野でも通じているはず。それは学生がどのような進路を選択しても活きてくることです」と農学での実学教育を通じて学生自身の成長を促しています。そんな先生の想いに呼応するかのように、研究室に所属する学生は時間があれば研究室に集まってくるのだそうです。

 

●研究室には開発に関わったものも含め、アスパラガスの加工品やグッズがズラリ。アスパラガスへの想いはここにも表れています。

 


 

アスパラガス栽培の未来とスマート農業

 

現在は、①良質多収、②病害抵抗性、③高温耐性をキーワードに品種開発の研究を進めています。育種以外では、モニタリングと環境制御によってアスパラガスがもつ本来のポテンシャルを最大限に引き出しつつ、誰にでもできる栽培方法と、作り手の省力化も実現させるような生産体系の構築を目指しています。アスパラガス栽培の理想は収穫をコントロールできることにあると考え、近い将来、国内でアスパラガスの出荷がほぼ無い11~12月などの時期に施設栽培によるアスパラガスを出荷できるようにしたいと園田先生は話します。

「最終的には1年中生産者の戦略に合わせて収穫・出荷できるようになり、所得をあげてもらえるような体系を提案したいですね。どこか一点だけで使える技術を開発して、それを誰かの手で生産体系の中に組み込んでもらおうと思ってもそんなことはできないので、農家さんが使える技術になるまで同じ目線を持つ者同士が連携しながら作り上げて、パッケージとして提案する必要があります。そうやって体系化された技術を生産者がそれぞれの生産現場に合うように独自に発展させていくのがベストだと考えています」

スマート農業にも目を向けている園田先生。労働力が減少していく中で、農業に参入する企業や新規就農者は経験や知識がない状態からのスタートになりますが、それらを伝える生産者は減少していっています。

「1年に1回しか経験できない農業において、スマート農業は『分からないところを埋めてくれる』『不安を解消してくれる』技術だと考えています。そこではソフト開発、IoTが鍵を握りますが、ソフト開発専門のエンジニアには農業分野でどういうソフトが必要で、何をどのように動かしたいか、といった生産者の声を届ける必要があり、そこに作物の生理生態について専門的な研究者の知見を加えて開発をすることで、はじめて全体が動いていくと思うんです。そういった、生産者、有識者、企業の連携をSAcにおいて活性化させ『生産現場で真に使えるもの』が共同研究で生み出されていくことを期待しています」

穏やかな口調で語られる言葉のなかに、先生が大切にしている実学と農業への強い想いが溢れていました。

 

●「いつまで出来るかわからないけど、ブリーディングはずっと続けたい」と語る園田先生。少年時代、実家の庭からはじまった育種への想いは今も変わることはありません。